HOME     オリジナル商品情報    嶽ワサビシリーズ    ケフィア      

〜千億の彼方より〜 わさび伝説








弘前


 弘前公園から見える岩木山は津軽富士とも言われ、裾を左右に美しくのばし、五月になっても山頂には雪を携え、その姿はまさに富士山を連想させた。

 上野から秋田新幹線「こまち」で秋田まで行き、特急「かもしか」に乗り換え、6時間強の長旅にうんざりしていた僕は、窓に映る山々の景色に、東北新幹線がここまで開通したら、再び来てみたい、という気持ちになっていた。

 静岡出身の僕は、学生時代のサークルの先輩である三上さんに誘われて、初めてこの北の地に着いたのである。
弘前駅は最近建て替えたのか、なかなか綺麗でまとまった建物であった。
改札口を出ると、数年ぶりにあう懐かしい顔がそこにあった。
 「イヤー、久しぶりだね。元気そうで何よりだ!」
 「先輩こそお元気そうで。」
 「なんの、なんの。すっかり田舎暮らしが身についちまって、まだ30前なのにすっかり、くすぶり小父さんだよ」
 「そういえば、しっかり方言が戻っていますね」

 僕らの大学は静岡にあり、共に海洋学部でサークルも一緒であった。
彼が入学したてのとき、サークルで自己紹介をしあったときに彼の言葉に、
皆、何を言っているのか解らず、皆びっくりするやら、戸惑うやら、
女の子などは皆下を向いてしまい笑いをこらえるのに苦労していた、と云う話はサークルで有名な話しであった。

 僕が入学したときは、2年の間に彼の方言もすっかり抜けていたが、それでも酒に酔うとお国言葉がちらほらでて、再び女子の笑いをさそっていたが、彼の温厚な人柄と面倒見の良さからなかなか人望があり、サークルの活動以外でもけっこう誘いがかかったものである。
 僕らは2年違いではあったが、妙に馬が合い、サークル以外でも良くつるみ、私の田舎が近いこともあって、夏休みなどよく実家の海へ遊びに行ったりしたものだった。

 そんな彼から久しぶりに手紙が届いたのは、学校を卒業して3年目の春、仕事もどうにか覚え、少しは生活に落ち着きが出てきた頃だった。
携帯電話万能の時代に手紙とは、彼らいし。
本来律儀な性格がそうさせるのだろう。
そんなことを考えつつ、彼の運転する車の助手席に乗り込みながら、学生時代のことを思い出していると。
 「沼田、今日はこれから寺と城見物だ。
それが終わって、例の古文書について、語りあかすべ。明日は花見、青森の花見は楽しいぞ。」

 そう、僕がここに来たわけは、学生時代の歴史研究会というサークルで二人で創り上げた論文(今思えばそんなたいそうなものではないのだが)の歴史的検証資料が発見されたという、彼からの連絡があったからだ。

 町並みは創造していた以上に小さく思えたが、山は以外に遠い。
街と山の間に自然がかなり残っているということだろう。

上寺通りの突き当りにある「太平山長勝寺」を中心に、33の禅寺を集めた神社が集まる「禅林街」を見学、
(慶長年間に津軽地方の各地域に点在していた33の寺院をこの地に移築したといわれるが理由は定かではない)
そこから歩いて10分ぐらいの弘前城では、花見の真っ盛り。
花見なぞ、どこでも同じだろうと思っていた僕は、ことのほか盛大な宴に戸惑いを覚えるほどだった。
 春には、(と云ってもこの本州最北端の地ではゴールデンウイークあたりが春だ)、津軽為信が築城したという弘前城址に300万人とも言われる見学者が来場するという。
自然が身近なこの国の人々は、長い冬が過ぎ、春の喜びを心から楽しむ方法を知っているのかもしれない。
花見当日は、朝早くから場所をとり、海苔巻きや卵焼きといった日本人ならば誰でも好む定番のお弁当に加え、この地方で名物であるシャコをたくさん持ち寄り、ほおばるのが県民の楽しみである。
 そういえばさすが東北は米どころ、田酒などに代表される、数々の銘酒が存在するせいだろう。
どこの組でも楽しそうな笑い声が絶えなかった。
城見物より、そちらのほうが気になったのもしょうがいないことではないか!?


 その夜、僕はHOTELの予約をお願いしておいたのだが、彼は、はじめから自宅に泊めるつもりでいたらしく、「まず、チェックインを」、と云う僕を無理やり三上家に引っ張ってきてしまった。
家には誰もいないから、と云う彼に負けて、お邪魔することになった僕は、玄関で出迎えてくれた人を見てびっくりした。
 「着いたぞ」
 「えっ、誰もいないのでは?」
 「マッ、いいからいいから。」
背中を押されて入った僕を向かえた顔は
 「アッ、君は」
 「お久しぶり」
なんとそこには、学生時代僕と同じ学年だったエリの姿があった。

 彼女は、歴史研究会などと云う地味なサークルに入りながら、サーフィン好きで、日本人離れした大きな目と美しい顔立ち、均整の取れた肢体に健康的な褐色の肌は、その辺のモデルなど遠く及ばない、僕らのアイドル的存在だった。
彼女も静岡出身だったせいで僕らは話が合い、よく映画など見に行ったり、サーフィンに行ったりして、彼女のボーイフレンドと自認していたが、結局思いを口に出せず、学生時代の思い出となってしまっていた。

 「こんなところで何してるの?」
そう問いかける僕に、二人は顔を赤くして、
 「いや、実はこの秋に結婚しようと思ってな、それで、まずお前に紹介しとこうと思って、それにサークル仲間が多いほうが何かとナッ」
(なに顔赤くして純情ぶってんだよ、この親父は。)そんな思いはおくびにも出さず。
 「いったい何時からなの?」エリに、そう尋ねる僕に、三上さんはエリのほうを見ながら
 「イヤー実は前ゞから、ネ!」
 「そうなの、卒業間近の、皆なで騒いだXmasパーティーの後、この人が猛烈に迫ってきて、それで、ネッ」
 「何がネッだよ、・・・じゃあ、学生時代からずっと!?
ああだまされた、もう今夜は帰れといってもゼッタイ泊まってく。三人で徹夜で飲むぞ!」

 そんな、懐かしくも、ほろ苦い青春の一時を再び過ごすことになった僕は、彼の実直な人生に彼女の明るさが花を添えることに、ささやかな羨望をおぼえつつ、心から二人を祝福した。
彼女の手料理を肴に、弘前城で見て以来、気になっていた待望の田酒で乾杯して、懐かしい学生時代のミーティングが始まった。

 「それで、見せたい古文書と云うのは何ですか?」
 「うんっ、実は、俺の実家は百沢地区にあって、近くの山を代々所有し、そこにある神社の出だったことは知っているだろう。」
そう、彼は神官としてこの地方に根付く古い一族の末裔であった。
その神社は、あまり人に知られない女神を祭るもので、今は大きな社もなく、彼の一族の所有する山にひっそりと祭られているということだった。
そんな家に生まれたからこそ、この地方の特産で有るホタテやシャコの育成、畜養のために入った海洋学部にあって歴史研究会などと云うサークルに参加したのだろう。

 彼は、FileBOXの中からコピーの綴りを取り出し僕に手渡した。
 「ここに書かれていることが真実なのか、どうか、今は知るすべは無いが、俺とエリはこれを解読したときに大きな驚きに打たれた。あまりにも信じられない話なので誰かのいたずらかと思ったほどだ。
しかし、妙につじつまが合う部分もあるし。公表しようかどうするか、迷ったときにエリがお前に相談してみてはどうか、と云った。どうせこの秋には、是非俺たちの結婚式に出席してももらうつもりだったのだから、そのときでと思ったのだが、やはり待ちきれなくなって呼んでしまった。
これを読んだ後、お前の意見を聞きたい。その古文書の原本のコピーがこれ。
語体が古い上に訛りがひどいので、そのままでは大変だろうと思って俺が現代風に標準語でアレンジした。明日の朝にでも意見を聞かせてくれ。」

 そこには、薄汚れた虫食い後の判別しにくい殴り書きのような文字の古文書のコピーと、これは対照的にワープロアウトした明朝文字のコピーがあった。
そして、それにはタイトルがついていた。


        「東日流霊異神記」


Legend of WaSaBI 
to be continue ⇒ [東日流霊異神記]
青森百沢地区から発見された古文書には
人類の正史には無い、信じがたい出来事が記されていた!


 00. Prologue  01. 弘 前  02. 東日流霊異神記
1585 岩木山百沢
03. 東日流霊異神記
1585 大浦城(弘前付近)
04. 東日流霊異神記
1585 大浦城 その2
05. 東日流霊異神記
1589 春・ビジョン
05. 東日流霊異神記
1589 春・ビジョン 2
06. 東日流霊異神記
1589 夏・鷹
駅構内(改札) 弘前駅 駅前ロータリー
禅林街上寺通り 太平山長勝寺(三門) 太平山長勝寺
弘前城(桜) 弘前城(葉桜) 弘前城(夜桜)